”この映画は心に傷を残す”
元になったたくさんの映画たちと素晴らしい音楽と効果音
この映画は、トッド監督がインタビューで語ったように「タクシードライバー」と「キングオブコメディ」2つの映画を下敷きに脚本が練られています。どちらも、マーティン・スコセッシ監督で主演は、ロバート・デ・ニーロ。2つの映画のデニーロは、今作のマレーフランクリンのような権力者の役ではなく、アーサーのような孤独で妄想の果てに大事件を起こす役です。 ジョーカーでも印象的なシーンの一つであるアパートに続く階段のところは、「エクソシスト」のようの階段によく似ています。
他にも、劇中にも出てきたチャップリンの「モダンタイムス」で作中の名言である『人生はクローズアップで見れば悲劇 ロングショットで見れば喜劇』は、クライマックスでジョーカーと化したアーサーが『俺の人生は悲劇だ。 いや違う、喜劇だ。』のセリフにリンクしています。音楽も不穏で劇中にすごくマッチしていました。 証券マンを殺害後のダンスシーンの素晴らしい音楽。最後のマレーとの対峙中の激昂していくジョーカーの心境を表した不穏な音。ジョーカーという人物をよく表している フランク・シナトラの「That’s Life」と「Send in the Clowns」。混乱と狂騒の中でジョーカーが生まれた瞬間流れるクリームの「White Room」。映画のメッセージをよく表している素晴らしい音楽でした。
ホアキン・フェニックスの怒り
今までいろいろな名優が演じたジョーカーを今作のホアキン・フェニックスは、少し違うアプローチで演じていました。今までのジョーカー像は、人間的な部分が少なくて狂乱を楽しみ 悪魔のような人物ですが、ホアキン版は、孤独で苦悩を抱えて社会や自分の人生に対する怒りが頂点に達したときにはじめてジョーカーが完成します。ここまでひどい事が連続で起きてこの先に何がある?もう笑うしかない。こんなひどいことは、もう喜劇だと。ある種のあきらめと感情の爆発的な開放が、クライマックスの哀しくてひどい事件を起こすんですが、ジョーカーのマレーフランクリンに対するセリフと行動に自分は爽快感すら感じました。この名シーンは、ホアキン・フェニックスとスタッフの仕事が素晴らしく、演出と音楽、演技が完璧だったと思います。
ホアキン・フェニックスの怒りの演技は、ホアキン・フェニックスの過去作『ザ・マスター』でも、とても印象に残っています。 『ザ・マスター』のホアキン・フェニックスは退役軍人でアルコール依存症で怒りを抑えられず、暴力をすぐ振るってしまいます。そんな中、フィリップ・シーモア・ホフマン演じる 新興宗教の教祖と出会い、全てを捨てて宗教活動に邁進します。ホアキンとフィリップ・シーモア・ホフマンのお互いの孤独な魂が共鳴して、ときにぶつかり合いながらも二人の人生の行方が 描かれる静かで激しい映画でした。ジョーカーとザ・マスター。2つともホアキン・フェニックスの怒りの演技だけでも見る価値がある映画だったと思います。
最後に余談ですが、大好きなTVシリーズ『アトランタ』(このドラマの感想)に出てる、今絶賛売れているザジー・ビーツとペーパーボーイ役のブライアン・タイリー・ヘンリーが出ていたのも 嬉しかったです。